Into the Cave

Into the Cave

この作品は、鍾乳洞に響く水の音の記録である。この鍾乳洞は、東京の西の果て、奥多摩の山あいにある関東最大級の鍾乳洞である。かつては山岳信仰のメッカであった。13世紀の鎌倉時代から19世紀の明治時代まで、ここは自然崇拝の信仰を集める「修験道」の聖地だった。鍾乳石や石筍、石柱をさまざまな仏になぞらえた当時の名残が、洞窟内の各所に宗教的な名称として残り、内部にはいくつかの「観音」や「地蔵」が保存されている。現在、この洞窟はこの地域の観光スポットになっている。

洞窟内には、狭いところ、広いところ、さまざまな空間があり、それぞれの空間で音響的な特徴が異なる。空間的な大きさ、岩の種類や物理的な形、さまざまな接触面など、それぞれの空間の特徴と、人の存在やここ数日の雨の量とが相まって、単純な音響現象に多様性を生み出している。洞窟内には蛍光灯がたくさんあり、階段やゴムホースが音の変換器として機能している。

洞窟内に設置された小さな「水琴窟」を見つけ、水の響きを聞きながら奥へと進んでいくと、洞窟全体が巨大な「水琴窟」であることに気づいた。洞窟に一歩足を踏み入れると、私は自然の音響装置の一部となり、洞窟の内側から耳を傾け、共鳴する。