ベトナムでは、主に中部沿岸部で多数派のキン族が金属打楽器ゴングを製作しています。またラオスやカンボジアなど近隣諸国からもゴングが様々な時代に中部高原に流通し、先住少数民族の人々に受け継がれてきました。彼らにとってゴングは精霊の宿る神聖な楽器です。そしてゴング調律師が適切な音色、音階にゴングセットを調律して、各村落の儀礼・祭礼において演奏に使用しています。
私は2006年からフィールドワークを断続的に行い、ゴングの演奏形態の多様性とその社会的役割、ゴング調律師の役割と調律の方法、ゴング製作の方法とゴングの流通、ゴングセットの音階と演奏形式、集会所の建築方法とその社会的役割の変化など、多様な観点からゴング文化の諸相を明らかにしてきました。その研究成果は論文や書籍だけでなく、民族誌映画の制作・上映、フィールド録音作品の出版、講演、ワークショップなどを通して一般社会に広く公開してきました。
現在は主にゴング調律師の調律技術の言語化や、葬送儀礼に焦点を当てた音響民族誌の制作に分野横断的に取り組んでいます。ここではゴング文化の研究活動についてアップデートしていくつもりです。